ニュースの概要
Microsoftは、イスラエルのバル=イラン大学で進むAI学習支援の取り組みを紹介した。講義の録音、その文字起こし、配布スライドといった授業資料をAIがまとめて扱い、学生が知りたい箇所を探したり、要点をまとめたり、理解度を測る確認テストを作ったりできるようにする仕組みである。試験導入の対象は71科目、約2,400人の学生で、今後は100科目まで広げる計画が示されている。教材を一方的に配るだけの段階から、学生一人ひとりが必要な部分を自分で引き出して使える段階へ移ろうとする動きだといえる。
引用元: Microsoft、大学講義資料を活用したAI学習支援の事例を公表(Microsoft)
分析・見解
講義録音が眠った資産から検索できる知識に変わる
多くの大学には、講義の録画やスライドが大量に眠っている。ところが、90分の録画を見返す学生は多くない。探したい説明が何分あたりにあるのか、見当がつかないからだ。
AIが文字起こしとスライドを結び付けて検索できるようにすれば、「あの定義の説明はどこだったか」という問いに数秒で答えられる。ここで効いているのは、新しい教材を作ることではない。すでにある資料の使い道を増やすことだ。しかも録音には、教員が口頭だけで補った大事な説明まで残っている。スライドだけでは拾えない情報である。
71科目・約2,400人という規模が示すもの
一つの授業だけの実験なら、熱心な教員の個人的な工夫で終わりやすい。今回は71科目、約2,400人である。科目ごとに資料の形式も話し方も違うため、その違いの中でも動くかどうかが試される。規模が大きいほど、文字起こしの誤りや専門用語の聞き取りミスも目立つ。
100科目への拡大計画は、運用の型がある程度見えてきたことを思わせる。ただし、公表された内容から成績や満足度への効果までは読み取れない。利用率、確認テストの得点、質問の変化といった数字が出て、はじめて本当の評価ができる。
確認テストの自動作成は便利だが、質の見極めが要る
要約と確認テストの作成は、学生が自分で学習を回すための道具である。問題を解いて思い出す練習は、読み返すだけより記憶に残りやすいと、学習科学で言われてきた。AIが講義内容から問題を作れば、この練習を手軽に増やせる。
一方で、講義で扱っていない内容が混ざる、細部が間違う、易しい問題ばかりになる、といった危うさもある。問題と一緒に、根拠となる講義の時刻やスライドを示すことが欠かせない。教員が抜き取りで点検できる流れも必要だ。
汎用チャットAIと違い、授業の言葉で答える点が肝
教材の質問に答えるAIは、これが初めてではない。米ジョージア工科大学では2016年に、授業の質問に答えるAI助手「ジル・ワトソン」が話題になった。2023年にはKhan Academyが対話型の家庭教師AIを公開している。
今回の事例で面白いのは、答えの根拠を「その授業そのもの」に置いている点だ。一般的なチャットAIは、ネット上の知識を広く混ぜて答えるため、授業の用語や順序とずれることがある。授業の録音から答えれば、先生の言葉づかいのまま復習できる。欠席した学生や、母語が違う留学生の助けにもなるだろう。AIの賢さより、どの資料を根拠にするかが勝負どころになる。
ビジネスへの影響
まず手元の録画と資料を棚卸しし、小さく始める
企業研修でも、録画した講義、スライド、手順書は社内に散らばっている。最初に、どこに何があり、どんな形式で、誰に権利があるのかを一覧にする。文字起こしの精度は音質で大きく変わる。先に数本で試し、社内用語や製品名を登録しておくと誤りが減る。
対象は一部署か数コースに絞り、うまくいった型を横へ広げるのが安全だ。新人研修でよく出る質問の上位10件を選び、AIが正しく答えられるか試すのも有効である。
効果を測る物差しは導入前に決めておく
利用回数が増えても、学びが深まったとは限らない。見るべきは、検索のあとに何が起きたかである。確認テストの得点、講師や事務局への問い合わせ件数、復習に使った時間などを、導入前の数字と並べて比べる。試験導入から拡大へ進む場合も、各段階で同じ指標を使えば判断がぶれにくい。
費用は、利用者数に応じた従量課金か定額かで総額が変わる。試験期間中の利用記録から、年間の費用を見積もっておきたい。
録音に含まれる声と著作権の扱いを文書で決める
録音には、受講者の質問や声が入っている。保存期間、閲覧できる範囲、外部のAIサービスの学習に使わせないことを、契約と社内規程に明記する。講師が作った資料の権利も確認が必要だ。
AIの回答には必ず出典の録画箇所を添える設定にし、学習者が自分で確かめられるようにする。誤答が出たときの連絡窓口も、先に決めておくと運用が止まらない。